活動報告

鈴木晃志郎(富山大学准教授)の活動報告ブログです

 

2013年度の文献講読(6回目)


Category: 文献講読   Tags: ---
人文地理学教室では、例年後期に2つの文献講読の授業を実施しています。
今年は月曜日に、この2つの文献講読の授業が行われています。
3時のおやつをみんなで飲み食いして、随時糖分を補給しつつ、
目の前の論文で吸収した糖をすぐさま消費。とても代謝効率の良い授業ですw
備忘録も兼ね、授業内容を簡単に残しておくことにしています。
来年度の受講生は、これまでここに紹介されていない論文を紹介してください!

第6回は、和文講読はSさんが、英文講読はS君が、
それぞれ以下の文献を選び、内容を紹介してくれました。

村田啓介 1995. 通信販売方式による産地直送事業の展開過程-山形県の「サクランボ
    小包」を事例として-
. 地理学評論Ser.A 68(6): 367-386.

Gutiérrez,J. Condeço-Melhorado, A.M., Martín,J.C. and Román, C. 2013.
    Road pricing in the European Union: direct revenue transfer between
    countries
. Journal of Transport Geography 33: 95–104.
 
村田論文は、最近はすっかり当たり前になってしまった(宅配便やゆうパックなどを通じた)産地直売方式が、佐藤錦で有名な山形県で拡がり、その後組織化されていく過程を記述した論文です。私自身は、本格的な地域調査を初めて自分の力で(というわけでもありませんが、イニシアチブを執って)やったのは、鞆の浦の調査が初めてだったと思いますが、一本の論文を書くまでの手間暇の大きさを、この調査を通じて深く思い知ったものでした。

著者の村田先生はこの論文をお書きになった当時、研究生をなさっていたようです。研究生ということは、恐らく修士にせよ博士にせよ、学位を獲った後、敢えて籍を残しながら、ご研究を続けておられたはず。私にも研究生の時代がありました。苦労の末に学位を獲ったのに、一文の足しにもならない。学び取った学識は、学問の世界を一歩離れると何の役にも立たない。それを直観したときの当惑、不安、失望は、今なお薄らぐことなく、私の中で大きな部分を占めています。あの状況の中で、これだけの労作をどのようなお気持ちで書かれたのかと思うと、胸に迫るものがありました。そのようなわけで私は早々に見る目が曇ってしまったのですが、学生には大変読みやすかったようで、活発な議論になりました。色々なコメントが出た中でも、なるほどと感心したのは以下の点でした。

この論文では「流通形態(システム)」の解明に大きな主眼があったはずなのですが、後段を読んでみますと、実際は郵便局長を中心に進められた販売業者による(流通の入口までの)事業の組織化の話が中心であって、端的にはT氏を核として行われた、さくらんぼ販売におけるブランディング戦略の話が調査の中心になっています。380頁から381頁はほとんどTさんの成功体験独演会といった様相を呈しています。
これがなぜ問題か、ということなのですが、T氏のギラギラした輝きの陰に隠れ、見えなくなっているポイントが幾つか散見されるのです。例えば378頁の終わりには「販売個数が一定か減少している販売業者が11」いることが記されているのですが、これ以降、T氏の独演会の陰で、彼らについて「なぜ上手く行かなかった(減らした)のか?」について触れられることはついにありませんでした。同じく、販売業者と郵便局の分布を県全体で示した第4図をみると、第1図ではまるでさくらんぼの生産されている様子のない酒田市や鶴岡市にも、かなりの仲買業者がいます。なぜ大消費地であるはずの名古屋から遠ざかるはずの日本海側に、仲介業者がそんなにいるのでしょうか?彼らも流通システムの一部をなしているはずですが、彼らについての説明はありませんでした。

邪推かも知れませんが、これについては、私にも思い当たるようなことがあります。フィールドに行くと、その地域の顔役になり、自分の考案した新しいイノベーションによって、地域で成功体験を体現しているような人物に会うことが良くあります。そういう人物は、地域で新しい試みを成功させるくらいなので、人の心を掴む魅力的な話術や人柄を備えた人物であることがほとんどですし、その人づてに紹介される人々も、その人のお陰で成功を手にした人であることがほとんどです(誰だって、自分の敵を人には紹介しませんよね)。知己を頼ってフィールドに入っていくとき、こういう地元の名望家さんのところに入ってしまうと、そのギラギラとした輝きに圧倒されてしまい、それ以外のものをどうしても見過ごしがちになってしまいます。学生のコメントを聞きながら、もしかするとこの調査は部分的にせよ、そういう調査報告になってしまったのではないか、と感じた次第です。

一方Gutiérrezらの論文は、共同体としてのEU内で生じた、物流の地域間不均衡とそれを通じたある種の国家間の搾取の実相を、高速の利用料を手がかりにして算出しようとしたものです。日本語で検索掛けても出てこない「ロッテルダム効果(発地と目的地の物流を算定する際、中継地での上げ下ろしのデータが抜けてしまうこと)」や、「NUTS2」(EUで三段階ある集計単位の2番目で、大体80~300万人単位のブロックになっている)のような用語が、注釈無しに使われるという、一見様お断りオーラ満載の書きっぷりに加え、学生の悪いお手本にしかならない(凡例や方位記号のない)図も満載。そもそも肝心の空間解析で何をやっているのか分からず挫折した学生がほとんどだったようです。もちろん私も専門外。頭を抱えつつ読んだのは申すまでもない。

この論文は(1)高速道路の課金制度がある程度(重さと移動距離に従って上昇する課金システムに)統一されたことによって得られるようになった、NUT2レベルのトラック流動に関する、全EU分のデータ=ポリゴン形式と、(2)有料の高速道路網のラインデータの2つから、トラックが移動した距離と払ったお金の積算で、国や地域間の利用料のフロー(所得移転)を空間的に算出しようとしています。しかし、(1)はポリゴンデータなので、当然(2)をもとに距離の計算をしようにも、ODのポイントがポリゴン内のどこかは分からないので、計算できません。さてどうするか、以下の工夫が最大の売りになっています。

ArcGISで、購入者特典?として提供されるものの中にパッチがありますが、この論文ではその中の「ポリゴンの重心を算出するパッチ」を使って全NUT2の重心(点データ)を出力し、これを道路データ=ライン間の距離を測る際の地点に置き換えることで、この課題を乗り越えようとしています。各々のNUT2ポリゴンの境界から重心点までの距離は、その上に重ねたラインデータ(道路)と重複している範囲を正確に算出できますし、OD間の総延長の中で、あるポリゴンが占める%も正確に算出できる。これにより、有料道路上をOからDまで走行した際に支払うお金の総額と、その際に通過した道路のライン形状が分かりますので、後は国や地域のポリゴンがそのライン全体の中で何%を占めているのかを計算すると、個々の国や地域の取り分(取られ分)が算出できるわけです。

それさえ分かると、やっていることは極めてくっきり見えてくるのですが、やはりこういう解析とか数式が絡んだ論文は、文系学生にとってはハードルが高いようで、それが出てきた時点でみんなポイッ。考えるのを止めてしまった様子。どうすればその苦手意識を持たないで読んでもらえるかなというのが、今のところ私の一番の課題でしょうか。ここを読んでる受講生のみんな~!いつも言ってるけど、僕は高校時代の成績通知、赤点だよ?私立文系だよ?皆さん富山の東大生(五教科入試)じゃないですか。食わず嫌いさえ止めれば、絶対みんなのほうが良く理解できるに決まってますって。
・・ということで、来週もまた頭を抱えましょう。皆さん食わず嫌いしないで読んでくださいね~!

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テーマ : ゼミ    ジャンル : 学校・教育

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