活動報告

鈴木晃志郎(富山大学准教授)の活動報告ブログです

 

2013年度の文献講読(2回目)


Category: 文献講読   Tags: ---
人文地理学教室では、例年後期に2つの文献講読の授業を実施しています。
今年は月曜日に、この2つの文献講読の授業が行われています。
3時のおやつをみんなで飲み食いして、随時糖分を補給しつつ、
目の前の論文で吸収した糖をすぐさま消費。とても代謝効率の良い授業ですw
備忘録も兼ね、授業内容を簡単に残しておくことにしています。
来年度の受講生は、これまでここに紹介されていない論文を紹介してください!

第2回は、和文講読はT君が、英文講読はMさんが、
それぞれ以下の文献を選び、内容を紹介してくれました。

長尾朋子 2004. 久慈川中流域における水害防備林の立地と機能. 地理学評論
   77(4): pp. 183-194.
Andresen, M.A. and Malleson, N. 2013. Crime seasonality and its
   variations across space
. Applied Geography 43: pp. 25–35.

 長尾論文が対象とする茨城県久慈川中流部の大宮・山方町周辺は、“水も漏らさぬ”連続提による現代的な治水・河川管理ではなく、遊水池を設けてそこに増水時の水を誘導し、水かさを下げるというやり方で治水する「氾濫許容型治水工法」が行われてきた地域です。遊水池に水を流し込むための隙間が空いた「霞提」と「水害防備林」はその工夫の産物です。ボーリングデータによる沈泥の粒径分析と、デジタル測量機器を用いた霞提および防備林の地形断面の分析を組み合わせることにより、本論文では、水害防備林が洪水時には水勢を削ぐ効果によって堤の浸食を防ぐ効果をもつ一方、土砂を林内に堆積させることで、自らも成長する水制構造物であることが示されます。林内に堆積した土壌の詳細な分析によって、上記の推論を立てる辺りの緻密な手続きはさすが理系。非常に明快な証明手続きだなと感服しました。

 しかし、それほど優れた側面をもつ「霞提+防備林のペア」は、なぜ現代的な連続提に取って代わられてしまったのでしょうか?また、なぜ久慈川中流域では現存しているのでしょうか?

 この論文の出発点は、摘要の冒頭にも掲げられているとおり「伝統的治水工法の一つである水害防備林が現存する久慈川中流域において、その立地と機能を検証」することでした。その結果「水害防備林は(中略)住民による「維持・管理」によって、機能を維持し、さらに発達させるきわめて文化的な存在」であり、「聞き取り調査の結果、水害防備林を管理する集落の住民は、水害防備林の持つ水制御機能を認識し、維持するための組織、規範を持つ」、「文化景観」であるという結論に至ったはずなのですが、この調査では洪水などの自然現象が土地の形状に及ぼす影響は非常に緻密に調べられている反面、人的・社会文化的要因については、聞き取りの一部が散発的に挿入されるのみで、ほとんど何も述べられていませんでした
 しかし論文中にも、「「集落住民からは護岸のために水害防備林を河岸まで拡大する希望が多いが、土地所有者が近年まで畑として利用していたため、水害防備林の拡大を拒否した経緯がある」(p.189)場所で、「現在も水防組織によって管理されている」(p.184)といった記述がさらっと書かれています。これだけ微視的な空間スケールですと、残す残さないの意志決定も、実際はこういう人為的要因がかなり重要な意味を持つと考えられるわけで、人為的要因を考えずに緻密な堆積物の分析をしてしまうことには問題がないのだろうかと、学生たちも思ったようでした。

 学生からはさらに、細かい指摘として、38サンプルを5つ(14種類)に分類して開催した図3で、38サンプルからどういう選定方法で14の例を抽出したのかについての記述が「代表的な粒径頻度分布」であったから、の一文で終わってしまう点などに、違和感を与えたとの指摘もありました。

 このほか、いわゆる自然地理の論文特有の言い回しが、人文地理の学生にはハードルを上げる効果をもたらしたようでした。「フラッドローム」「シルト」や「攻撃斜面」「級化構造」などは、確かに普段耳馴染みのない単語ですから、これは仕方ないといえば仕方がないかも知れません(苦笑)。こういう治水事業の一環として守られてきた構造物こそ、「文化的景観(文化景観ではなく)」そのものといえるでしょう。もしこの論文が2004年の景観法改訂後に世に出ていたら、或いはもし、人文地理の研究者と共同で調査・執筆されていたら、きっと随分違ったものになっただろうなあと、学生の質疑を聞きながら思った次第です。

 一方、Andresen and Malleson の論文は、一見易しそうでいてなかなかの曲者。表向きは「犯罪の発生傾向を季節ごとに集計すると、種目によって異なる季節性をもつ」ことを、時間のみならず空間分布特性においても確かめようとしただけの論文で、摘要を読んでも結論を読んでも、その程度のことしか書いてありません。「犯罪が季節によって増えたり減ったりする現象」は確かに面白いけれど、一世紀半近く前から言われていることだと論文中でも指摘されている。それを細かい集計単位で実施したというセールスポイントにしても、単にデータの精度を上げただけで著者が凄いわけではない。ならば特定犯罪の空間分布特性を分析したことが凄いのかと言われると、これも幾らでも検討している人はいます(=良く知られているのは、眺望隠れ家理論を適用して、ひったくりの起きやすい場所の特徴を示している研究ですね)。おまけに図1などをみると、「季節性」と著者が言っているレベルよりも明らかに短い月単位の時間スケールで犯罪の増減が現れており、著者たちは季節性(四半期単位)でものを見ようとするあまり、一ヶ月単位で起きている現象を見落としているようにも見えてしまいます。性暴行が5月だけ突出して多いのはどうしてなのでしょう?強盗が8月に入ると急に減少するのはなぜでしょう?季節性の議論ではこういう一ヶ月単位の増減は、均されてしまいます。見えるものも見落としているこの論文、なぜ天下の Applied Geography にこんなものが載るのでしょうか?ここで挫折してしまった学生がほとんどだったようです。

 実はこの論文、注意して中の方を読むと、著者が殊のほか力を入れて書いている部分があります。それは「Spatial Point Pattern Test」と呼ばれる一種の空間統計解析について解説している部分。中ほどまで読み進めたところで、ようやくこの「点分布パターンテスト」が示され、それがこの論文の第一著者であるAndresenによって2009年に開発されたアルゴリズムであること、集計単位地区の異なるデータの間でも、分布パターンの類似度を解析するためのものであり、そのプログラムが彼のウェブサイトで公開されていることなどが記されます。ここまで読んで初めて、この論文の主目的が「ある町の犯罪傾向を時・空間的に解明する」ことにはなく、「どこの都市でも持っている犯罪統計データを、喩えそのデータの集計単位が年度や集計主体によって異なっていても定量的に比較し、類似度を検討できるようなアルゴリズムを開発すること」にあったのだと理解できるというわけです。

 そんなわけで、色々な意味で非常に「たちの悪い」この論文、著者がどういう狙いでこれを書いたのかを説明するだけで終わってしまいましたが、学生たちは論文が曲者だったぶん、解題そのものを大変喜んでくれ「言われて初めてこの人が何したがっていたのか分かった・・」という声も多かったので、まあ授業で読まれて良かったのでしょう。論文発表の裏事情まで類推できないと読むハードルが上がる論文というのも多いもので、これはまさにそういう内容だったように思いました。

ということで、来週もまた頭を抱えましょう。
みんな~、次回こそは手抜きせんと、ちゃんと読んできてね~・・!

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テーマ : ゼミ    ジャンル : 学校・教育

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